{article.alt}

スタートアップ投資におけるバリュエーション

バリュエーションの考え方、計算方法ついての記事です。

バリュエーションとは?

バリュエーションとは企業の価値を表す一種の尺度であり、主に未公開のスタートアップ企業に対する評価で使用されます。企業のバリュエーションを決定するためには、その企業の財務状況、業績予測、市場環境、競合他社との比較、業界全体の状況など多くの要素が考慮されます。また、その企業が持つ特許や独自の技術、人材、そして未来に対するビジョン等も評価の要素となります。ただし、これらの要素を具体的な数値に変換するのは容易ではありません。そのため、バリュエーションは投資家と起業家の間の交渉によって最終的に決定されることが多いです。

バリュエーションの重要性はその算出が非常に主観的であるという事実に由来します。実際、企業のバリュエーションはその業績だけでなく、投資家のその企業に対する期待や市場全体の状況などに大きく影響を受けます。このような主観的な要素が絡むことで、同じ企業でも異なる投資家から見ればそのバリュエーションは異なる場合があるのです。

スタートアップ投資におけるバリュエーションの重要性

スタートアップへの投資におけるバリュエーションは、投資の対象となる企業にどれだけの価値があると考えられるかを示す重要な指標です。これは、投資家が投資する資金と引き換えに得られる企業の所有権の割合を決定する基礎となります。すなわち、投資家が100万ドルを投資し、企業のバリュエーションが1000万ドルであれば、投資家は企業の10%の所有権を取得します。

また、バリュエーションは投資家が投資対象企業を評価する際の基準の一つでもあります。バリュエーションが高いほど、企業への投資によって得られるリターンも大きくなります。しかし、それは同時に失敗した場合のリスクも大きいことを示します。そのため、投資家はバリュエーションを基に、投資対象となる企業がどれだけのリターンをもたらし、それに対してどれだけのリスクを取るべきかを判断します。

バリュエーションの算出方法1 -比較法-

バリュエーションの算出方法の一つである比較法は、投資対象となる企業の業界や市場環境、事業規模、成長ステージなどを考慮して、同じような特性を持つ他の企業との比較によってバリュエーションを決定する方法です。この比較法には主に次の2つのタイプがあります。

類似会社比較法

類似会社比較法は、同じ業界に属する公開企業のバリュエーションを基に、投資対象企業のバリュエーションを推定する方法です。以下に、その具体的な計算手順を説明します。

1. 類似企業の選定

まず、投資対象となる企業と同じ業界に属し、事業モデルや規模、成長率などが類似している企業を選びます。これらの企業は通常、公開企業であり、その財務データが公開されていることが望ましいです。

2. 比較指標の選定

次に、企業価値を売上や利益などの財務データで割った比率を計算します。これらの比率はエンタープライズバリュー(企業価値)/売上(EV/Sales)、エンタープライズバリュー/EBITDA(利払い税引前償却前利益)(EV/EBITDA)、株式価値/純利益(P/E ratio)などが一般的です。

3. 比較指標の算出

選定した各類似企業について比較指標を計算します。企業価値は公開市場での株式の価格と発行済み株式数から求めることができます。

4. 平均値または中央値の計算

全ての類似企業の比較指標を集計し、その平均値または中央値を計算します。

5. 投資対象企業のバリュエーションの推定

最後に、投資対象企業の売上や利益などの予想値に、計算した平均値または中央値を掛けることで、投資対象企業のバリュエーションを推定します。

この類似会社比較法によるバリュエーションの算出は、比較可能な公開企業が存在すること、また、それらの企業が市場から適切に評価されていることを前提としています。このため、新興の業界や特異なビジネスモデルを持つ企業のバリュエーションを算出する際には、この方法が適用できない場合もあります。

事業譲渡比較法

事業譲渡比較法は、投同じ業界で最近行われたM&A(企業買収)の取引価格を比較することで、投資対象企業のバリュエーションを推定する方法です。以下にその具体的な手順を説明します。

1. 類似取引の選定

最初に、投資対象となる企業と同じ業界で、かつ事業モデルや規模、成長率が類似する企業が対象となった最近のM&A取引を選びます。

2. 比較指標の選定

次に、M&Aの取引価格を売上や利益などの財務データで割った比率を計算します。これらの比率は取引価格/売上(P/Sales)、取引価格/EBITDA(P/EBITDA)、取引価格/純利益(P/E ratio)などが一般的です。

3. 比較指標の算出

選定した各類似取引について比較指標を計算します。

4. 平均値または中央値の計算

全ての類似取引の比較指標を集計し、その平均値または中央値を計算します。

5. 投資対象企業のバリュエーションの推定

最後に、投資対象企業の売上や利益などの予想値に、計算した平均値または中央値を掛けることで、投資対象企業のバリュエーションを推定します。

事業譲渡比較法は、比較可能なM&A取引が存在し、かつ、それらの取引価格が公正な価格であることを前提としています。しかし、M&A取引はそれぞれ独特の条件や目的を持つため、取引価格にはその影響が反映されています。また、取引詳細が非公開である場合もあり、必要な情報が得られない場合もあります。これらの要素を考慮しつつ、投資家は事業譲渡比較法を使用してバリュエーションを推定します。

バリュエーションの算出方法2 -割引現金流(DCF)法-

もう一つのバリュエーションの算出方法として割引現金流(DCF)法があります。投DCF法は、企業が将来生み出すと予想されるキャッシュフローの現在価値を計算することによって、企業の価値を評価します。

以下にその具体的な手順を記載します。

1. 予想キャッシュフローの計算

企業の将来のキャッシュフローを予測します。これは通常、数年間の予測期間(例えば、5年など)とその後の永続期間(ターミナル・バリューとも呼ばれる)に分けて計算されます。予想キャッシュフローの計算には、売上成長率、利益率、資本投下率などの企業の経済的特性を反映した仮定が必要です。

2. 割引率の設定

割引率(または資本コスト)は、投資家が将来のキャッシュフローを現在価値に換算する際の金利を表します。この値は、一般的にリスクフリーレート(無リスク資産の期待収益率)とリスクプレミアム(リスクを取ることに対する報酬)の合計で算出されます。

3. 現在価値の計算

予想キャッシュフローを割引率で割り、それらを全て合計したものが企業の現在価値(またはバリュエーション)となります。

DCF法の利点は、企業の将来的な収益性を直接的に評価できる点にあります。しかし、その一方で以下のような問題点もあります。まず、将来のキャッシュフローを正確に予測することは非常に困難であり、特にスタートアップのような新規事業では不確実性が高いため、予測に大きな誤差が生じる可能性があります。また、割引率の設定も主観に左右される部分が大きく、割引率の変化によってバリュエーションの評価が大きく変わる可能性があります。これらの要素を考慮しつつ、投資家は複数のシナリオを作成し、それぞれのシナリオに対するバリュエーションを評価することで、投資判断を行います。

投資家のシェア

投資家のシェアは、投資家が投資を行うことで取得する企業の所有権の割合を表します。これは企業のバリュエーションと投資額に基づいて計算されます。例えば、企業のバリュエーションが1000万ドルで、投資家が100万ドルを投資した場合、投資家は企業の10%の所有権を取得します。

しかし、所有権の割合だけが全てではありません。所有権の割合に加えて、投資家は投資契約によって得られる権利(投票権、情報提供義務、優先的な配当権等)も重要な考慮事項となります。これらの権利は投資家がその企業にどの程度の影響力を持つことができるかを決定します。

期待リターンの算出

期待リターンは投資家が投資によって得られると期待される利益のことを指します。期待リターンはバリュエーション、投資額、投資期間、リスク等を考慮して計算されます。具体的には、投資によって得られると期待されるキャッシュフロー(配当、売却による利益等)の現在価値を算出し、それを投資額で割ることで期待リターン率を計算します。

以下にその具体的な計算手順を説明します。

可能な結果のリストアップ

まず、投資対象となる企業の将来について考えられる全てのシナリオをリストアップします。例えば、売上が予想通りに伸びるシナリオ、売上が予想を下回るシナリオ、企業が倒産するシナリオなどが考えられます。

各シナリオの確率の設定

次に、各シナリオが発生する確率を設定します。この確率は主観的なものであり、投資家が持つ情報や見解に基づいて決定されます。

各シナリオのリターンの計算

それぞれのシナリオが実現した場合のリターンを計算します。このリターンは通常、投資額に対する収益(または損失)の割合として表されます。

期待リターンの計算

各シナリオのリターンとその確率を掛け合わせたものを全て合計することで、期待リターンを算出します。

ROI(Return on Investment)

ROIは「投資収益率」を意味し、投資がもたらす利益と投資額との比率を示します。この指標は非常にシンプルで、初期投資額に対するリターンのパーセンテージを示します。計算式は次の通りです:

ROI = (投資による利益 / 投資額) * 100

例えば、投資額が$100,000でその投資が$120,000を生み出した場合、ROIは(120,000-100,000)/ 100,000 * 100 = 20% となります。

IRR(Internal Rate of Return

IRRは「内部収益率」を意味し、投資の期間を考慮に入れた収益率を示します。IRRは投資のキャッシュフロー(投資額、期間中のキャッシュフロー、最終的な売却額など)を考慮し、その投資が投資家にとってどれだけ価値があるかを評価するものです。IRRはNPV(Net Present Value、純現在価値)が0となる割引率として定義されます。

IRRの計算には複雑な数学的処理が必要であり、通常は財務計算ソフトウェアやスプレッドシートの関数を使用して計算します。

期待リターンは投資家がどれだけのリスクを取るべきかを判断する上で重要な指標となります。期待リターンが高いほどリスクも高いと考えられるため、投資家は期待リターンとリスクのバランスを考慮して投資を行います。

株式の売却

スタートアップ投資における売却価格は、多くの場合、次のいずれかの方法により決定されます。

1. 買収

スタートアップが他の企業に買収される場合、売却価格は買収企業とスタートアップ間の交渉により決定されます。この価格は、スタートアップの現在の財務状況、市場での競争状況、将来的な成長見込みなどを考慮した上で決められます。

2. 株式公開(IPO)

スタートアップが株式市場に上場する場合、公開価格はスタートアップ自身、証券会社、潜在的な投資家との間の交渉と市場環境により決定されます。IPOでは、株式の初期供給価格が設定され、公開後は市場の供給と需給バランスにより価格が決まります。

3. 二次市場での売買

一部のスタートアップでは、公式に上場する前に二次市場(プライベート企業の株式を取引する市場)で株式が売買されることがあります。この場合、売却価格は売り手と買い手間の交渉により決まります。

4. 後続の資金調達ラウンド

スタートアップが新たな投資ラウンドを開始する場合、そのラウンドでの評価額が新たな基準となります。この評価額に基づいて、既存の投資家がその株式を売却することができます。

バリュエーションを活用した投資の判断基準

バリュエーションは投資の判断基準の一つです。バリュエーションが高ければ投資によるリターンも大きくなりますが、それは同時に失敗した場合のリスクも大きいということを示します。そのため、投資家はバリュエーションと期待リターン、リスクをバランス良く考慮して投資を行います

また、バリュエーションは投資家が投資対象となる企業を評価する上で重要な指標の一つです。投資家はバリュエーションを見ることで企業の財務状況や業績、市場環境等を理解し、それを基に投資の判断を行います。バリュエーションの高低だけでなく、それがどのように算出されたかも重要で、その詳細を理解することで投資家はより深く企業を理解することができます。